そろばん学習で子どもはどんな能力が得られるか?

親御様がご自身のお子様のそろばん教育に何を期待するかにもよりますが、そろばんを学習して実際に得られることは、親御様がそろばん教育に期待していることとは別のことかもしれません。
今回は、そろばん学習で得られることについて、考えてみます。

そろばんは、筆算と同様、掛け算は足し算を使って、割り算は引き算を使って結果を導きます。
そろばんを習い始めると、まず見取り算と呼ばれる足し算引き算を、その次の段階では掛け算や割り算を教わります。
その後進級する過程で(具体的には3級あたりから上の級に進んでいく中で)伝票算(伝票をめくりながら足し算や級が上がれば引き算も含む計算の科目)、応用計算(文章題の科目)を、さらに、段位になると開平(平方根を求める計算)や開方(立方根を求める計算)などの科目が順次導入されます。
とは言え、そろばんで計算する全科目は、結局足し算と引き算の組み合わせで回答を作ります。
そろばんで行うことは、いつも足し算と引き算なのです。

そろばんは、瞬時にそろばんの盤面のパターンを認識し、足したり引いたりするための運指を思い出し、問題の数字を見て、そろばんの盤面のどの位置に、どの順に足したり引いたりしていくかの手順を思い出して、その通りに指を動かして結果を盤面に求めるもので、練習を重ねる中で無意識にそれらの手順を実行できるように訓練するものです。
そのため、そろばんは、他の勉強のように毎回問題ごとに考えて何かを行うものではありません。
そろばんは、振り付けの決まった指のダンスとか、計算問題という楽譜を見て運指の通りに指を動かして弾くピアノのようなものです。
勉強というよりは、運動に近い感じがするものです。

そろばんでの足し引きのほとんどのパターンを頭と指が覚えた後(10級を合格したくらい)では、そろばんでただ足したり引いたりすることであれば、数字を見たら反射的にできるようになります。
そろばんの盤面と問題を見て指を動かして答えを求める中で、本人は計算している意識さえないかもしれません。
ダンスで振付を覚えた後や、ピアノで暗譜した後と同じです。

級が上がると、科目が増えたり、科目で扱う桁数や問題数などが増えることによって制限時間内の計算量も多くなり、問題と解く手順もより複雑になります。

そろばんでより速く正確に計算するには、定期的な練習の機会を保ち、素早く滑らかに指を動かせるように訓練し、その能力を維持・向上していく必要があります。
級が上がるにつれ、ほんの1週間の練習の休止でも、指の動きの衰えを感じるようになります。
未経験者には想像しにくいとは思いますが、指が思うように動かないと、関係ない周りの珠を誤って触ってしまったり、きちんと珠を上げたり下げたりしきれなかったりして、修正操作が必要になり、計算時間のロスが生じたり、修正し損なうことによるミスなどが発生したりします。

どの級でも、段位でも、決められた時間内に合格に見合う問題数以上を正確に答える必要があります。
どのような手順や運指を使うのかを思い出したり、実際に思い出した方法で関係ない珠を触らないように正確にそろばんをはじくスピードも上げる必要があります。
何度も練習して、それぞれの級でほぼ何も考えずにそれらの問題の計算を時間内に正確に行えるようになると、合格基準に達し(一般的には、検定試験を受けて合格してから)、次の級に進みます。
ダンスでより難しいステップを、ピアノでより難しい曲を課題として与えられ、クリアすると次のステップに上がっていくのと同様です。

黙々と練習して3級あたりまで進んでいく途中で、あるとき、5進数とか10進数の意味とか、自分が無意識に指を動かしてそろばん上で行っている計算の本質的な意味を、突然理解する子が少ないながらいます。
一方、いつまでたっても、例え段位を取得した後でも数字の深い意味には何も気づかず、ただ言われるままルールのままのステップを確実に踏むことだけで、そこまでの級や段位を習得してきた子もいます。
どちらのタイプの子でも、継続的なそろばん学習によって、級が上がるにつれてそろばんの足し引きの速度や正確さが向上し、脳に良いと言われる手指の運動を長期にわたって継続して行い、暗算などでワーキングメモリ(脳にある短期記憶領域)が増えるなど、いろいろな部分が鍛えられているのは確かです。

私個人の意見ですが、そろばんができることと、算数ができるとか、理系に強くなるといったことは、直接的には結び付かないのではないかと思っています。
もちろん、そろばんができる子は、筆算で計算する子よりおおむね計算が速いので、小学校低学年では相対的に算数のできは良いかもしれません。

今はやりの中学受験においても、計算が速いことは有利に働きます。
でも、計算は算数の基礎の基礎の部分の話であって、算数は計算能力だけあればいつも満点が取れる科目というものでもありません。

そろばんができる子の苦手の1つに、概算を考慮することがあります。
そろばんをする子は、いつも計算に正確さを求められるので、ザクっと概算を求めることの重要性を知らず、詳細な値を得る必要がないときでも有効桁以外も含めたすべての数を使って、”正しい計算”を目指してしまいがちです。
5歳からそろばんを始めた私も、子ども時代はそういう子でした。

そろばんをする子が計算をするとき、いつもその結果が正しいかどうかという〇か✕かの2択のみで判断するので、1の位で正解と1違っていた場合と100万の位で正解と1違っていた場合のどちらも、同じ1違った✕という結果しか受け止めません。
一方、世の中では、1円の桁の違いと100万円の桁の違いでは雲泥の差ですし、1円の桁の数は決算などのとき以外はあまり必要のない数だったりもします。
そもそも世間一般では、数百万や数千万という桁の話をするとき、1万未満の数字は切り捨てて、計算の対象にしません。
概算を使って物事を判断する方法を使い始めるのは、そろばんを習ったことがない子の方が早いように見受けられます。
私が生活で使う計算の本質を理解したのも、大人になって生きた数字と対峙したときで、周りに比べかなり遅めでした。

最後にそろばん学習そのものからは若干それますが、そろばん塾に通うことのメリットについてを述べます。
そろばん塾は、学習塾と同じかそれ以上に1週間に通う回数が多い習い事です。
小学校低学年でそろばん塾に通うことは、将来学習塾に通う生活習慣を身に着ける練習になるかもしれません。
少なくとも、続けることの忍耐力を身に着けるきっかけになる習い事です。

上記のあれこれは、そろばんのご経験がある親御様には、想定内の内容が多かったかもしれませんが、特にご自身がそろばん未経験の親御様には、想像していた方向とは異なる方向からの意見をお届けできたのではないかと思います。
いずれにしても、お役に立てる情報であったなら幸いです。

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